鳩見すた『ひとつ海のパラスアテナ』読了

2015年03月13日 20:50

第21回電撃小説大賞「大賞」受賞作『ひとつ海のパラスアテナ』を読みました。
非常に読後感の爽やかな、「海」を題材とした作品らしい清々しさと少しの寂しさを感じさせる、
大賞にふさわしい貫禄を感じました。

読んでいて思ったのは、昨今の流行を狙わない、
むしろ逆行してるような設定と物語が、だからこそ新鮮に感じた驚き。
それでいて、最後まで読んでみれば、確かに今のラノベらしいスタイルで落ち着いていて、
古きを否定せず、新しきも受け入れている、懐の深さがあります。

最近は見回すと勇者と魔王とハーレムとダンジョンばかりで、
いい加減食傷してる中で、「海」という題材を持ち出してきたのがまず目を引きます。
世界設定も、「水没した世界」だけならありがちですが、ここで多少陸が残ってるとか、
新しい大地を作ったなどと逃げることなく、文字通り「すべて」水没してる所が新しい。
そして、必然的に船に関わる描写が増えて、新しい方面の知識欲も満たしてくれます。
操船からサバイバル、応急手当など多岐に渡っているので、読んでるだけで楽しい。

全体の構成としては、序盤で物凄い衝撃的なイベントがあることで、インパクトは十分ながら、
逆にそれがあまりに印象的すぎて、中盤に中弛みを感じる部分もあったりします。
しかし、決してつまらないわけではなく、少女2人の軽快なトークは微笑ましいものですし、
世界観を広げる意味でも重要な場面です。
なにより、この中盤の緩やかな時間があるからこそ、ラストが生きてくるのです。

個人的に、大賞をとる作品というものは、無駄が一切存在しないのだと思います。
この作品も同様で、登場する人物から出来事、設定から何から、全てに意味があります。
何気ない一言であったり、思わず流して読んでしまうようなことも含めて、
そういう「さりげない伏線」の積み重ねで生み出された物語は、
それらが収束していくのを見る度に、「ここで出てくるか!」と嬉しくなるのです。
本作はそういった積み重ねの集大成でもあります。

あとは「テーマ」がしっかりしてること、ですかね。
帯でも書かれていますが、まさに「生きる」ということの意味をガンガン問いかけてくる作品です。
主人公が特殊な能力や優れた才能を持たない、ごく普通の少女だからこそ、
根源的な「生きる」ということに向かい合う時、胸を打つのかもしれません。

ラストに少し詰め込み過ぎた感があったり、あまりにも「無駄にしなさすぎたり」と、
やや過剰な部分もありますが、逆にそれが昨今のラノベらしい展開になっていて、
爽やかな読後と続刊への期待に繋がっているのも事実。

ドラマチックな展開と、やや下ネタ過剰な軽い読感が上手く噛み合った、
非常に読みやすく、また一気に読ませる作品だと思います。
納得の大賞受賞作品です。すばらっ!

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