架神恭介&辰巳一世『よいこの君主論』

2009年05月15日 16:24

イタリアの政治思想家、ニコロ・マキャベリが書いた政治学書『君主論』を、
「目立小学校5年3組の覇権争い」という形で、
実に分かり易い様式に変換してくれたのが、この本です。

何故に小学校が舞台なのかというと、
「将来社長となるためには、小学校のクラス1つ程度は制圧できなきゃダメ」という、
「世界征服の前の市街征服」を唱える『エクセル・サーガ』みたいな理由なんですが。

元々は『完全覇道マニュアル』という本でしたが、つい最近、文庫化されたのがコレ。
原本はプレミアついちゃってますが、こちらは本屋に行けば、今なら普通に買えます。

上記で偉そうに「マキャベリが~」とか書いてますけど、
私は『君主論』を読んだことはありません。
名前は知ってましたが、難しそうで敬遠していたわけですよ。

本書は、私のような層をターゲットにしてるわけで、
私は見事に網にかかったわけですね。うひぃ。

でまぁ、上述したように、
この本は「5年3組の覇権争い」を例として『君主論』を解説してくれているので、
非常に分かり易い上に、なんともブラックなジョークで溢れています。

解説役が「ふくろう先生」「たろうくん」「はなこちゃん」の3人なんですけど、
子供の学習教材みたいな態を取りながら、こいつら腹の底から真っ黒です。
平然と「愚民ども」とか言いやがります。
特に、はなこちゃんの攻撃性の高さとドス黒さは異常。

構成としては、『君主論』の内容に沿う形で章分けされており、
それを5年3組の1年間に当てはめて、物語形式で読めるようになっています。

この5年3組での主人公は「ひろしくん(10才)」。
彼がいかに5年3組を支配・統治していくかという、一大叙事詩でもあります。

5年3組には他にも、「ハイエナりょうこ」の異名を持つ「りょうこちゃん(10才)」や、
学級代表の「聖帝」、「まなぶくん(10才)」といった、
各々に君主を目指す「覇王の卵たち」が群雄割拠しています。

彼らの戦略・計略・支配体系・それらの成否などについて、
5年3組の物語としてショートストーリーが語られた後で、
ふくろう先生による解説がその都度挿入されるという形式になっています。

5年3組のひろしくん等、小君主たちの行動を例として挙げて、
ふくろう先生が「この行動は『君主論』ではこういうことだ」と教えてくれるのです。

まぁ、覇権争いの例が「5年3組」という時点で相当狂ってるんですが、
解説&聞き役のふくろう先生たちも、まともなふりをした狂人なので、
子供の学習教材という形を取ってるだけに、アンバランスさがとても面白いです。

また、舞台が小学校なだけで、
実際にやってることは「三国志」とか「信長の野望」などの戦略SLGと同じなので、
そういったものが好きな人も楽しめるかと。
小学生が「在野」とか普通言わない。

まぁ、明らかに呂布がモチーフである「りょうくん(10才)」という、
筋骨隆々な武人も登場するので、その内容は推して知るべし。

引き抜き工作、人心掌握の計略、君主(小学生)どうしの駆け引き…。
ライトノベル感覚で『君主論』を理解できる、コンセプトも内容も、
とても面白い1冊だと思います。

なんか公式サイトもあるみたいなので、興味がある人は見てくるといいよ!


以下、ネタバレ感想。

とりあえず、素直に面白かったです。いや、笑った笑ったw

なんというか、例が小学生だけに、
やけに現実味があり(やってることはファンタジーなのに)、
実際に私たちの生活の中でも、なんとなく当てはまる事例が多々見られ、
少なからず衝撃を受けた部分もあったりするわけです。
『君主論』怖ぇー。

さて、肝となるのは5年3組のお友達です。
公式サイトを見てもらえれば分かる通り、明らかにこいつ等小学生じゃない

本書のキャラ紹介イラストは更に邪悪さが滲み出ており
この時点で先の物語に期待が膨らみます。

序盤は各君主の紹介に近いものですが、戦いはすでに始まっており、
始業式からおよそ1ヶ月足らずで5つの勢力が瓦解、
その他の勢力に吸収される形となっています。
この展開の早さも魅力的ですね。

特に笑ったのは、
「第9章 篭城について ―ドッジ大会、女帝りょうこちゃんの侵略」です。

小君主にとって、民衆(友達)に侮られるのは、失脚の原因となります。
なので、こういうイベント事では、できるだけ失敗してはならないということで。

しかし、りょうこちゃんにはこの時、運動神経抜群な配下が3人もおり、
ひろしくんグループは劣勢に立たされていました。

で、ドッジ大会前に痛手を与えるべく、
放課後、りょうこちゃんはひろしくんをドッジボールに誘います。

なんとかひろしくんは断ることに成功したものの、仮病を理由に断ったものだから、
外で練習することができなくなりました。

それどころか、
ひろしくんの自宅前の公園でりょうこちゃん一向はドッジボールを始めた上、
その公園に作られた、ひろしくん達の秘密基地を、徹底的に破壊したのです。

ひろしくん宅に集まっていた、彼の仲間たちは激昂しますが、
ひろしくんは握り拳から血が滴り落ちるほどの怒りと無念を抱えながらも、
ここでりょうこちゃん達と戦う訳にはいかないことを十全に理解しており、
配下の友達を制止したのでした。

うん、「配下の友達」とか、訳が分からない単語を平然と使ってる時点で、
私も大分毒されてると思います。

つーか、この文章は誇張でもなんでもなく、結構そのまんまな展開なんですけど、
「握り拳から血が~」とかいう時点で、爆笑してしまいました。
もう本気で小学生じゃねぇwww


あと、驚くべきことに、この覇権争い話にはちゃんと伏線が張られています。

それは終盤まで一大勢力を築いていた、
女帝・りょうこちゃん失脚のための布石なんですが、
中盤で人心掌握のために、有力な配下(友達)と一緒に掃除をサボっていたことが、
最後の最後で大打撃となった展開の妙には、素直に感心しました。

また、「駄菓子屋の妙計」と呼ばれる話で登場した、
ゆみこちゃんという駄菓子屋の近くに住んでる女の子の存在がキーとなったのも、
素晴らしい伏線だったと思います。

単なる中二設定だと思われた、りょうこちゃんの「雪上戦闘が得意」なども、
後々に意味を持つようになるなど、細かい部分もちゃんと活かされてます。

単に『君主論』の項目になぞらえているだけの構成ではない、ということですね。


とはいえ、気にならない部分がないと言えば嘘になります。

前述の「駄菓子屋の妙計」ですが、
これは新たにひろしくんグループに参加したゆみこちゃんとようこちゃんを、
ひろしくん推薦の駄菓子屋「みらの」へ連れて行こうとする話なんですが、
ここで用いた「かくれんぼしながら駄菓子屋へ誘導する」というのが理解できません。

私の遊びの幅が狭いのかもしれませんが、かくれんぼって屋外でできるものですか?

そりゃあ、空き地や公園などの限定空間ならともかく、
駄菓子屋へ行こうというのだから、隠れる場所は普通に路地となると思うんですが。
さすがにそれは無理がないかい?

このひろしくんの計略は、たろうくんやはなこちゃんにも絶賛されてますが、
私はどうにも納得できなかったので、ちょっと首を捻ることになりました。

全体的に隙が無い作品だけに、こういう部分が気になってしまうとも言えますが。


もうひとつは、最後のりょうこちゃんです。

いや、ギャグでこういう展開にしたんだと思うんですけど、
「氷の女王」の最後としては、このオチには心底ガッカリしました。

や、読んでる最中は爆笑してましたけど、
りょうこちゃんという、かつては女帝とまで呼ばれた人物の最後としては、
もっとカッコいい散り様が見たかったなぁというのが正直なところ。

まぁ、どんどん運命に見放されて落ちぶれていくりょうこちゃんが、
なんとも可哀想ということもあったので、美しいラストだとは思うんですけどね。
君主なんて目指さずに、幸せになればいいよ。

あと、これは内容に関することではありませんが、
登場人物が非常に多いうえに、全員ひらがな表記なため、
最初にキャラ紹介があるとはいえ、初見では誰が誰だか理解し難く、
理解しようとすると、いちいちキャラ紹介までページを戻さなくてはいけないのが、
とても面倒でした。

これに関しては、最近のTRPGリプレイでよく見る手法である、
左ページの左端に、キャラクターに関する、
簡単な注釈をいれておいてもらえればよかったかなぁ、と。


…とまぁ、最後に少しツッコミはいれたものの、
久しぶりに面白い本を読めたと思っています。

できれば、ひろしくんとかえでちゃんのラブ話も見たかったところですが、
それはまあ、『君主論』とは関係のない部分ですからね。仕方なし。

ともあれ、小学生らしからぬ小学生たちの、5年3組の覇権を巡る戦国絵巻、
『君主論』に興味がなくても、戦略ゲームを見る感覚で楽しめますし、
単純に文章が面白いので、ブラックジョークが好きな人にもオススメです。
はなこちゃんは本当にヒドイ。

最後に、解説がシャレが利いてて最高でした。

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