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東方SS「誰もが少しだけ優しくなれる日」

2009年12月25日 18:14

クリスマス記念SS。
漫画にしたかったのですが、どう考えても間に合わないので、SSで妥協。

神奈子がクリスマスのお祝いとして、
幻想郷に住む誰か1人の願いを叶えてあげる、というお話。
軽いタッチのコメディーです。
俺設定や二次設定満載なうえ、即席で書いたので色々適当ですが、
それでもよければ追記へどうぞ。

元ネタはどこかの国の童謡か何かだったと思います。
ただ、概要を覚えてるだけでタイトルを知らないという罠。
大好きな話だったんで、「これじゃね?」という心当たりのある方は、
コメントなどで教えて頂けると嬉しいです。


以下、本編

               「誰もが少しだけ優しくなれる日」

                                    著:岳る





「「「メリー・クリスマース!」」」
 山の頂きにある、そら寒い神社の境内で、元気な祝福の声が三つ重なった。幻想郷は妖怪の山に神社を構える守矢の二神とひとりの巫女である。
 今年は暖冬なのか、年も終わりだというのに山の頂きにあって未だ雪すらないものの、外で騒ぐにはさすがに厳しいこの時期に、しかし、二人の神と一人の巫女は、やたらハイテンションであった。
「今年もまた、この目出度い日がやってきたねぇ」
「目出度いのはいいけど、神社の、しかも祀られてる神様本人が、異教の神の誕生日を祝うとか、その辺はどうなの?」
「小さいことは気にしない。それにあれは神様じゃなくて、ただの大工の息子じゃないか。一般人の誕生日を神が祝って何の問題があると?」
「ただの一般人の誕生日は世界的に祝われたりはしないと思うけど…まぁ、神奈子がそれでいいなら、私も気にしないことにするわ」
「お二方はフランクにすぎると思います」
 神奈子が笑うと、諏訪子は呆れた表情を浮かべ、早苗は頭を押さえて呻いた。
「いいじゃないか、早苗。別に本気で信仰しようというんじゃあるまいし。この国の連中は、なにかと理由をつけて騒ぎたいだけさ。そしてその国の神である私がそれに倣うのは至極当然」
「この節操のなさが日本だよね~」
「…そのせいで顕界を追われた神の言葉とは思えません」
 この親しみやすさこそが二神の魅力だとしても、自覚がなさすぎるのも困り物だと、早苗はもう一度ため息をついた。
 そんな早苗の様子を横目に、
「そんなことはどうでもいい。今日の本題はコレなんだからね」
 そう言って神奈子は、筒状に丸めていた紙を広げてみせた。

『年に一度の大奇跡! 幻想郷一幸運な貴方に、守矢神社からのビッグプレゼント! 幻想郷にお住まいの皆様の中から抽選一名様に、願い事をひとつだけ叶える権利を差し上げます。なお、当選の発表は神様の来訪をもってかえさせて頂きます』

 ど派手に装飾と着色が施されたポスターを得意気に見せる神奈子。赤と黄色の色彩が目に痛い。
「信仰を貰ってばかりじゃ信者の心を繋ぎ留めることはできないわ。そこで! 日ごろ集めた信仰の力を、信徒の皆さんに還元しようという企画よ!」
「…でもコレ、『幻想郷にお住まいの皆様』って書いてあるけど、信仰を還元するなら、信者限定の方がいいんじゃないの?」
「これだから祟り神は営業が下手だっていうのよ。この企画は新しい信者獲得のためのパフォーマンスでもあるの。ここで度量の大きい所を見せておけば、関心を集めることもできるでしょう? まずは興味を持ってもらうことが大切なのよ」
「さすがは神奈子様です!」
「好きで祟り神やってるんじゃないっつーの…」
 瞳を尊敬の念でキラキラと輝かせる早苗の裏で、諏訪子はブーたれた顔でブチブチと草を引き抜いていた。
「とにかく、もうこのポスターは幻想郷中に貼っちゃったし、実際にこの噂で幻想郷は持ち切りよ。あとはパァーッと私が願い事を叶えてしまえば、更に信仰が集まるって寸法さ」
「そう簡単なもんじゃないと思うけど…まぁ、頑張れ」
 拳を握って背景に炎を燃やす軍神に、蛙神がやる気の無い顔でエールを送った。
「じゃあ早速始めようか! まずは誰の願い事を叶えるか決めないとね。早苗、用意はできてる?」
「はい。…頑張りました」
 そう言って早苗が差し出したのは、凄まじい数の竹籤が収められた大きな筒だった。驚くべきことに、その一本一本に幻想郷に住む人妖たちの名前がすべて彫り込まれていた。
「早苗が一晩でやってくれました」
「いや、さすがに一晩では無理です」
 茶化す諏訪子に冷静にツッコミを入れる早苗。「ノリが悪いなぁ」と諏訪子が頬を膨らませる。
「ご苦労だったな、早苗。お前の苦労は我らへの信仰となり、必ずや報われるであろう」
「ああ、神奈子様…!」
 神々しい光を放つ神奈子の姿に、早苗は改めて畏敬の念を抱かずにはいられなかった。たとえその光が徹夜明けの朦朧とした脳みそが生み出した早苗の幻覚であったとしても、早苗の信仰は揺ぎ無いのだった。
「では早速、幸運な一人を決めるとしよう!」
 神奈子が勢い良く筒の中に手を入れると、迷うことなく一本の竹籤を掴みとり、引き抜いた。三人は揃って顔を籤に近づけて、書かれた名前を確認する。そして、
「…よりにもよって、コイツか」
「宣伝になる気がまったくしません」
「神奈子、見なかったことにして、もう一度引いちゃいなよ」
 散々にダメ出しされる中で、神奈子は自分を奮い立たせる。
「神が約束を違えてどうする! たとえ相手が誰であろうと、私は私の意地を通す!」
「さすがです、神奈子様!」
「そういうの、本末転倒って言うの、知ってる?」
 燃える神奈子に賞賛を送る早苗と対照的に、諏訪子はヤレヤレと肩を竦めるのだった。





「私は幻想郷で一番不幸な巫女だわ…」
 石畳の参道をほうきで掃除しながら、霊夢はため息をついた。
「早苗は自機になるし、宝船だと思えば商売敵が増えただけだし、散々な年だったわ」
 ザカザカと乱雑にほうきを振り回しながら、霊夢は独り言ちた。
「来年はどうなるのかしら…」
 はぁ、と重く息をついたその時、
「メリー・クリスマース!」
 半ばヤケクソ気味に祝いの言葉を唱えながら現れたのは、八坂神奈子その人であった。何故か真っ赤な服を着て、白いボンボンの付いた赤い帽子を被っている。
「おめでとうございまーす! 貴方は幻想郷に住む人妖の中からただ一人、幸運にも選ばれました! さあ、叶えてやるからとっとと願い事を言えコンチクショー!」
「…なに突然押しかけてきて勝手にキレてるのよ」
「ええい、五月蝿い! お前の願いを叶えてやると言ってるんだから、ありがたがりなさい!」
「もしかして、あの巫山戯た広告? あれ、本気だったの?」
「つくづく神の神経を逆撫でるのが得意な巫女だね。本気も本気、大マジよ。で、厳正な抽選の結果、よりにもよってアンタの名前を引き当てたというワケよ」
 やれやれと肩をすくめる神奈子を尻目に、霊夢は何かを考えているようだった。
「…ねぇ、これ、どうやって当選者を決めたの?」
「あ? ああ、幻想郷の人妖全員の名前を書いた竹籤を作ってね、そこから適当に選んだのよ」
「…本当に幻想郷中の中から一人だけ選んだんだ」
「さっきからそう言ってるじゃない。神は嘘はつかないわ」
 なにやら様子のおかしい霊夢に、神奈子は訝しげな顔を向けた。
「さ、信じて貰えたなら、願い事を言いなさい。かなりの信仰を集めた今の私なら、本当に何でも願い事を叶えてあげるよ」
 それまでの投げやりな態度から一変、神奈子は自信に満ちた笑みを浮かべた。
 「信仰」とは「力」である。それは想像を具象化し、時に神すらも顕現させる。神奈子もまた、そうして信仰によって生まれた神だった。
 神すらも創り得る「信仰」…その力が一点に凝縮された時、それは「奇跡」となる。本来、形無き「信仰」を束ね、力とできるのは、信仰を力として受け取る神ならではの御業と言ったところか。
「てなわけで、願い事カモーン!」
 段々とテンションが上がってきたのか、神奈子が外来語を交えて霊夢に迫る。しかし当の霊夢は落ち着いた体で、神奈子に対して向き直ると、
「別に願い事はないわ」
 と、すげなく断った。
 驚いたのは神奈子である。あの強欲銭ゲバ巫女が、こんなチャンスに飛びつかないなどと、幻想郷が滅んでもあるはずがないと、尋常ならざる自体に脳の処理が追いつかず、脂汗を流しながら驚愕に打ち震えていた。
 そんな神奈子をスルーして、霊夢は先程とは一転、機嫌よさげに鼻歌なぞ歌いながら、軽快に境内の掃除を再開した。
「ふんふんふふーふ、ふふんふふんふ~♪」
「…機嫌よさそうなところ悪いけど」
「あら、まだ居たの?」
「あんた、さっきまでの負のオーラはどこに行ったわけ? それも願い事を放棄したってのに、その機嫌のよさはどこから出てくるのよ」
 神奈子の当然の疑問に、当の霊夢は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私が幻想郷で一番幸運な巫女だって分かったからよ」
「はあ?」
「来年はいい年になりそうね」
 微妙に食い違う会話に、神奈子はやれやれと肩をすくめた。まぁ、本人がそれでいいと言うなら仕方…
「ないわけないだろ!」
「きゃあ!」
「ええい、お前さんは自己満足でいいかもしれないけど、こちとら商売なんだよ! あんたの願い事はいいってんなら、別の願い事を叶えて欲しそうな人妖を、当選者である、あんたに紹介してもらわないと困る!」
「何よそれ…。よく分かんないけど、そうね…魔理沙なんてどう? あいつ、この時期になると言われなくても宴会しに来るのに、今年に限って『研究がある』とか言って、付き合い悪いのよ。その『研究』とやらを手伝ってあげれば、きっと喜ぶと思うわ」
「あの黒白か…」
「あ、私からの推薦だってことは秘密よ。恩着せがましい奴と思われたくないし」
「変なところで細かいな、お前は…。まぁ、頼みとあれば断る理由もない。承知したよ」
 また宣伝になりそうにないなぁと嘆息しつつも、願い事を辞退した者の推薦なら仕方ない。手を振って見送る霊夢に苦笑いを見せながら、神奈子は魔理沙の住む魔法の森に向かった。





「う~ん…また失敗か」
 鬱蒼と木が生い茂る森の中で、少しだけ拓けた場所があり、そこに小さな一軒家が建てられていた。取れかかった看板に書かれた文字は『霧雨魔法店』。
 家の庭には魔法陣が描かれ、その中央で、魔理沙は難しい顔をしながら腕を組んでいた。
「術式は完璧なはずなのに、何が足りないんだ…? やっぱりキノコの素材から見直さないとダメか…」
「メリー・クリスマース!」
「あんぎゃあー!」
 突然足元から現れた神奈子に、魔理沙が乙女とは程遠い悲鳴をあげて飛び退った。
「いきなりなんなんだよ!?」
「おめでとうございます! あなたは目出度くも、守矢神社主催のクリスマスプレゼント企画にご当選されました! つきましては私、八坂神奈子が全身全霊をもって願い事を叶えてさしあげます!」
 丁寧な口調が逆に威圧感を放つ神奈子の言葉に、少し落ち着きを取り戻した魔理沙が声を返した。
「プレゼント? 願い……ああ、あの広告か。なんだあれ、本気だったのか」
「くっ、どいつもこいつも…。ええ、モチのロンで本気の本気よ。本当は別の人間が当選したんだけど、そいつは辞退しちゃってね、代わりにあんたの願いを叶えてやってくれと言われたから、こうして来たってわけよ」
「なんだ、奇特なヤツがいたもんだな。こんな美味しいチャンスを逃すなんて、頭が春なんじゃないか?」
 あながち間違いではないと思うも、顔には出さない神奈子。
「それなら話は早い。今やってる魔法がうまくいかなくて困ってたんだよ。神様パワーでちょちょいと成功させてくれるなら、私も楽でいい」
「その程度のこと、神である私にかかれば造作もない。お前の願いはそれでいいか?」
「ああ……いや、ちょっと待て」
「なんだ? 別の願いでもいいわよ。文字通り『なんでも』叶えてやるからね」
 神奈子の言葉も耳に入らないのか、魔理沙はなにやらブツブツと自問自答を繰り返すと、改めて神奈子に向き直った。
「悪い。さっきのはナシだ。ついでに私の願い事も別にない」
「な!? あんたまでそういうことを言うか!? 何? 神の力を舐めてるの? なんならデモンストレーションでここに札幌雪祭りの雪像を全部喚び出してもいいのよ!」
「よくわからんが、他人様に迷惑をかけるようなことはやめろよ! お前は神様だろうが!」
「はっ! まさか黒白に説教される日が来るとは思わなかったわ。神奈子ショック」
「可愛く言うのもヤメロ。気持ち悪い。兎に角、願い事はいいから、さっさとカエレ」
「カエレと言われてハイソーデスカとはいかないのよ! 理由を言いなさい、理由を!」
 激昂する神奈子をよそに、魔理沙は少しだけ恥ずかしそうに横を向き、ボソボソと言った。
「…自分の力でやらなきゃ意味がないんだよ」
「……は?」
「だから、他人の力で完成させても、自分の身にならないだろ。だから、これは私が完成させる。そして私は自分の願いくらい自分で叶えられる。だから神奈子に叶えてもらう願い事はない」
 どこまでも真っ直ぐな小さな魔女を、少しだけ眩しそうに見る神奈子。しかし、
「『ちょっといい話』にしようとしても、私は騙されないわよ! もう、あんたのポリシーは理解したから、それなら別の人妖を紹介しなさい!」
「別に誰も騙そうとはしてないが…。そうだな、パチュリーなんてどうだ? あいつ、喘息が酷くて今年は屋敷から出られないそうなんだよ。もし喘息が治ったら、あいつも喜ぶだろ」
「あの紫もやしか…」
「あ、私が回したってことは内緒にしとけよ。恩を着せたと思われるのも嫌だし」
「変なところで律儀というかなんというか。まぁいいわ。承知したよ」
 紅魔館の住人なら宣伝になるかと算段を立てると、神奈子はニヤリと笑った。
「あんたが願わないから手伝うことはできないけど、その魔法が成功することを祈ってるわ」
「神様に祈られるとは、縁起がいい話だ」
 魔理沙も歯をむき出して笑うと、飛び立つ神奈子をブンブンと手を振って見送った。そして再び魔法陣へと歩を進める。
「よし、やるか!」
 どこかすっきりとした表情で、魔理沙は儀式の準備を再開するのだった。





「おめで」
「帰って」
 恒例の挨拶をかます間もなく、すべてを拒否られた神奈子は、もちろんそのまま帰るわけもなかった。
「まだ何も言ってないじゃない!」
「だいたいの想像はつくわ。この目に痛い広告のことでしょう?」
「知っているなら話は早いわ。そう、そ」
「だから帰って」
「人の話を聞けー!」
 さすがに暴れだす神奈子。
 先程からマッハの勢いで「帰れ」と言っているのは、紅魔館地下大図書館の主、パチュリー・ノーレッジそのひとであった。
「こっちは調子が悪いんだから、静かにして欲しいのよ。それに私には別に叶えて欲しい願い事なんてないわ」
 どこかイライラとした様子で、言葉の端々にも刺があるパチュリー。しかし神奈子は意に介すことなく続ける。
「またまた、隠しても無駄よ。私はあなたが喘息で苦しんでるから助けてやってくれと、ある人物に言われたから、ここにいるんだしね」
「…その余計なお世話焼きはどこのどなたかしら?」
「それは依頼人の意向で秘密とさせて頂いてるわ」
 飄々としらばっくれる神奈子にパチュリーはふぅとため息をつくと、コホコホと咳き込んだ。
「確かに私は喘息を患ってるし、それを面倒にも思っているけど、それも含めて『私』であるのよ。それは私が本と共に在り続けることと同じく、自然なこと」
 でも、とパチュリーは少しだけ笑った。
「この広告が真実だとして、せっかくのチャンスにわざわざ他人の心配をする物好きがいたという事実は、まさに『小説より奇なり』ね」
 常にどこか皮肉げで、達観した感のある知識の魔女の表情が、一瞬、柔らかくなったような気がした。
「そうね、せっかくだし、私もそのお人好しに倣うとしましょうか。小悪魔、レミィを呼んできてちょうだい」
「分かりましたー」
 本棚の間を忙しなく動き回っていた司書の悪魔が、パタパタと去っていくのを見つめながら、神奈子は本日何度目になるか分からない、ため息をついた。。
「まったく、幻想郷は欲のないヤツばかりだねぇ」
「そうじゃないわ。ただ、ここに住む者たちは、自分で勝ち取ることの意味を理解している、それだけのことよ」
「その理屈でいうと、次の願い事候補も期待薄なんだけど…」
「そこまでは保証できないわ」
 珍しくクスクスと笑うパチュリーの姿を、神奈子はどこか不思議そうに見つめていた。ここを訪れた時から比べると、やけに機嫌がよくなってるが、私は何かをしたのだろうか?
 神奈子が首を傾げていると、「お呼びしてきました~」と先程の小悪魔の声が聞こえた。次いで、
「山の神か。なにやら願い事を叶えてくれるという話だが、本当か?」
 紅魔館の主、レミリア・スカーレットが、鋭い牙が覗く口元を、ニヤリと笑みの形に歪めた。レミリアの斜め後方に控えるように、メイド長が影のごとく付きしたがっている。
「…ここのお嬢さんの推薦で、願い事を叶える権利はあなたに移ったわ。そして、その問いの答えなら、イエスよ」
「本当に何でも?」
「文字通り、『何でも』よ。幻想郷の支配者になるとか、カリスマを取り戻したいとか、抽象的で大雑把で中二病な内容でも何でもござれ」
「面白い話だけど、私には不要なものだわ。『神頼み』なんて、悪魔がすることじゃないしね」
 レミリアの言葉に『ほら見なさい』と神奈子がパチュリーに非難の視線を向けた。パチュリーはどこ吹く風で、成り行きを楽しそうに見守っている。
「それなら、あなたの代わりに願い事を叶えて欲しそうな人妖を紹介してくれる? できれば『こいつなら飛びつくだろ』っていう人材を希望したいんだけど。いい加減疲れたわ」
 テンションが絶賛ストップ安中の神奈子は、どこか事務的かつ投げやりに言った。その様子に少々呆れながらも、レミリアは首だけ後ろに向けて、後方に待機しているメイド長――十六夜咲夜に視線を向けた。
「咲夜、何か願い事があるなら、私の代わりに叶えてもらうといいわ」
「いいえ、お嬢様。主を差し置いてそのようなことはできませんわ。それに」
 咲夜は花が咲いたような笑顔をレミリアに向けると、
「お嬢様のお気持ちだけで、私は十分満たされております」
「はいはい、ごちそうさま」
 二人の世界に入ってしまった悪魔とその犬の寸劇を、神奈子が鼻をほじりながら適当に眺めていた。パチュリーはククッと可笑しそうに笑っている。
 そんな神奈子の様子を瀟洒にスルーすると、咲夜は姿勢を正して「神奈子さま」と向き直った。思わず「はい」と背筋を伸ばしてしまう神奈子。
「お嬢様も私も、特に願いはありません。もし、他に願いを叶えて欲しい人をお探しだと言うのなら、魔法の森の人形遣いなどよろしいかと思いますわ。彼女からはお茶会のお誘いがあったのですが、パチュリー様のお体の具合もよろしくないので、お断りしたところでして。今年は魔理沙もなにやら忙しい様子でしたから、今頃はひとりで寂しい思いをしていることでしょう。様子見を兼ねて、伺われてはいかがかと。きっと喜びますわ」
「人形遣いか…」
 考え込む神奈子に、咲夜は人差し指を自分の唇に当てて、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「私からの推薦ということは、どうか御内密に。彼女も変にプライドが高いお人ですから、私からだと分かったら、素直になれないかもしれませんので」
「よくできたメイドで惚れ惚れするよ。分かった。言わないでおこう」
 あの人形遣いは里でそれなりに人気がある妖怪だったはず。彼女に恩を売るのは悪くないかもしれない。
 そう前向きに考え直すと、神奈子はまた空へと飛び立っていくのであった。
 その姿を見送って、パチュリーは深く椅子に座り直した。心なしか、どこか嬉しそうである。
 そんな友人の様子に目ざとく気づいたレミリアが言った。
「願い事を放棄しておいて、やけに上機嫌じゃないか。どうせなら、その喘息を治してもらえばよかったのに」
「…あれはとても強力な神の奇跡。そういうのを嫌う厄介な友人を持つと、気軽に神様に頼ることもできないのよ」
「なんだ、私に遠慮したの?」
「まぁ、そんな理由じゃないんだけどね」
 ズッコケるレミリア。後ろでは咲夜が笑いを堪えているのが見える。そんなレミリアを可笑しそうに一瞥すると、パチュリーはどこか遠くを眺めるように、視線を天へと移した。
「そんな貴重な権利を、私なんかのために手放せる人がいたのね」
 見知らぬ変人を想い、パチュリーはまるでお礼でも言うかのように、手に持ったコーヒーカップを天に向けて少しだけ掲げるのだった。





「今年はなんて寂しいクリスマスなのかしら…」
 真っ白なテーブルクロスを敷いたテーブルに突っ伏すと、アリス・マーガトロイドはさめざめと泣いた。気合を入れてお茶会の準備を整えていた自分の愚かしさに涙が止まらなかった。
「それにしても、魔理沙とパチュリーが揃って都合が悪いなんて……ハッ!? まさかあの二人、私を除け者にして二人きりでこっそり密会してるんじゃ…!?」
 ひとり妄想を膨らませながら、怒りを募らせていくアリス。悪い想像は更に悪い予想へと成長し、アリスから正常な判断力を奪っていく。
「そうか…二人にとって、私は邪魔者でしかなかったのね。ふふ、とんだ道化だわ。せめて私には本当の気持を明かしてくれたなら、あの二人を祝福することもできたのに…」
 アリスの脳内では、純白のウェディングドレスに身を包んだパチュリーを、颯爽とお姫様抱っこで連れ去る魔理沙の姿が浮かんでいた。
「………よし、殺そう」
 唐突に物騒なことを呟くと、アリスはふらりと立ち上がった。
「いや、もう幻想郷そのものを滅ぼしてやる! 私の怒りと悲しみを、幻想郷中の生きとし生ける者すべてに思い知らせてやるのよ!」
 ゲタゲタと狂気の笑みを浮かべながら、アリスは自宅の地下へと歩を進める。そこは以前に研究していた巨大人形『ゴリアテ』シリーズを保管する格納庫であった。こんなこともあろうかと、いつでも幻想郷を制圧できる程度の武力として密かに製造・実用化にこぎつけていたのである。ズラリと並ぶその威容がおよそ十三体。世界を七日間炎に包むことすら可能な火力を備えた、感情なき破壊兵器たち。
「さあ、今こそ美しい戦争の始まりよ!」
「いいねぇ、そのデッカイ野望。ひとつ、私が協力しようか?」
「誰!?」
 突然背後に現れた声に、アリスが反射的に振り返った。そこには物珍しそうにゴリアテ人形をしげしげと眺める神奈子の姿があった。
「山の神…!? まさか、私の計画がもうバレていたなんて…!」
「いや、盛り上がってるところ悪いけど、そうじゃないんだわ」
 と、それまでの経緯を手短に話してみせる神奈子。ようやっと落ち着きを取り戻したアリスは、ふむと腕を組んで考え込む姿勢をとった。
「幻想郷を滅ぼすなんて、なんとも物騒な話だけど、そんな願いでも願われたら叶えずにはいられない。そして今の私にはその願いを叶えるだけの力がある。さあ、どうするね?」
 一見、利の無いことをしようとしている神奈子であったが、当然それも計略の内であった。たとえ幻想郷が滅びたとしても、その後で神奈子が救い主として人々に希望を与えれば、更なる信仰を得ることも可能であろう。後のフォローまで含めての、今回の無茶な企画なのであった。なんともタチの悪い神様である。
 しかしそんな神奈子の悪巧みを知らないアリスは、しばし黙考した後に、神奈子に決意を込めた声で言った。
「やっぱりやめるわ。だから願い事もなしで」
「えええええ! ここまで盛り上げといて、それはないんじゃないの? いいからサクっと滅びを与えようよ。幻想郷なんて潰しちゃえばいいじゃない」
 神とは思えない発言に、しかしアリスはどこか吹っ切れたような表情を浮かべると、静かに返した。
「だって、幻想郷を滅ぼすということは、私に願い事の権利を回してくれた人も巻き込んでしまうということでしょう? この世界で私はひとりぼっちなんだと思ってた。でも、こんな私を気にかけてくれる人がいたなんて、それだけで私は満足してしまったのよ」
「あああ、せっかくの救世主プロジェクトが~」
「救世主…なに?」
「いやいや、こっちの話」
 慌ててごまかす神奈子。
「じゃあ、あなたの代わりの誰かを推薦してくれる? そろそろ時間も少ないから、願い事に飛びついてくれそうな人を頼みたいんだけど」
「うーん、そうねぇ…。そういえば、霧の湖の近くに住んでる氷精の様子がおかしかったかしら。いつも無駄に元気でうるさいのに、今年は元気がないみたいなのよ。あの子ならきっと、願い事に飛びつくわよ」
「あの⑨か…」
 もうこの際、願い事を言ってくれさえすれば誰でもいいと、神奈子は思い始めていた。いい加減疲れてきていたのだ。
「あ、私からの紹介ってのは内緒ね。あの氷精に変に懐かれても困るから」
「はいはい、りょーかい」
 これも既にテンプレだなと、神奈子は心の中で思いながら、アリスに向かって別れの挨拶を告げ、飛び去っていった。
 独り残されたアリスは、格納庫の扉をゆっくりと閉める。
「あなたの活躍の機会を奪ってしまってゴメンなさい。でも、おかげで大切なものに出会うことができたわ」
 重い音とともに、扉が完全に閉まると、アリスはもう振り返らなかった。
 私は独りじゃない。
 そう信じることができるから。





 冬の湖につま先を浸けてパチャパチャと水をかき混ぜながら、チルノは泣きそうになるのをグッと我慢していた。天に星々が瞬き始める頃。雲ひとつない夜空は、くっきりと月と星の光を幻想郷に届けていた。
 今年は暖冬で、もう年が変わる頃だというのに、雪の一粒すら降らない。山に住む豊穣の神などは大はしゃぎしているが、チルノの心は重くなるばかりだった。
 なぜなら、レティが目を覚まさないからだ。
 冬の妖怪であるレティ・ホワイトロックは、氷精であるチルノの数少ない理解者でもあった。しかし、寒さを司る妖怪であるがゆえ、冬の間しか姿を見せることはなく、普段はどこか涼しい場所で眠り続けている。
「雪でも降れば、すぐにレティも気づくのに…」
「その願い、叶えてしんぜよう~」
「うわあ!」
 突然、湖を割って現れた神奈子に、チルノは仰天した。
「私は八坂神奈子。妖怪の山の頂にある神社に宿る神」
 厳かに名乗りをあげた後、もはや恒例となった事情説明に入る。チルノもあの広告は目にしていたようで、すんなりと話は通じた。
「ふーん、せっかくのチャンスを棒に振るなんて、バカなヤツもいるのねー」
(バカにバカと言われているぞ、アリス)
神奈子は心の中で泣かずにはいられなかった。
 そんな神奈子の胸中に気づくはずもなく、チルノは勢い込んで、神奈子に詰め寄った。
「じゃあ、今すぐ雪を降らせることもできる!?」
「その程度、私にかかれば造作もないこと」
「そ、それなら…!」
 と、そこまで言いかけて、チルノの動きが止まった。神奈子は不吉なものを感じて恐る恐るチルノに声をかける。
「…確認するけど、願い事は『雪を降らせる』でいいのよね?」
「………やっぱり、願い事はいらない」
「ど、どうしてよ!? 妖精は刹那的な京楽で生きてる存在じゃなかったの!?」
 マイガッと頭を抱える神奈子をよそに、チルノは真面目な表情で神奈子に言った。
「あたいの代わりに、大ちゃんの願いを聞いてやって欲しいんだ」
「大ちゃん…? ああ、あのいつもお前さんと一緒に遊んでる妖精か」
「大ちゃん、最近様子がおかしいんだ。遊んでても、どこか寂しそうで、なんだか悩み事でもあるのかもしれない」
「…お前自身、似たような状況じゃないか。なぜ他人を優先する?」
 神奈子は少し意地悪な気持ちを込めて、そう訊ねた。妖精とは他人の迷惑を顧みない、快楽主義者だと理解していた神奈子にとって、チルノのこの反応は純粋に興味深いものだったのだ。
 チルノは服の裾をキュッと握ると、何かを堪えるようにボソボソと言った。
「レティはもう少し、あたいが我慢すればいいだけのこと。でも、大ちゃんの悩みは待ってても解決しないじゃない。だったら、あたいは大ちゃんを助けたい。あたいは大ちゃんの友達だもん!」
 チルノの言葉が心底意外だったのか、神奈子はしばし呆気にとられた。そして少しだけ優しい微笑を浮かべると、チルノの頭をよしよしと撫でた。
「……お前さんはいい子だね」
「ほ、褒めても何も出ないんだからねっ」
 神奈子の言葉に真っ赤になったチルノは、照れ隠しなのか、何故かツンデレ化した。その様子が可笑しくて、神奈子は笑った。チルノはプンとむくれたままだ。
「わかった。じゃあ願い事の権利はその子にあげよう。でも、本当にいいのか? こんなチャンスは二度とないぞ?」
「武士に二言はないわ!」
 力強く答えるチルノに苦笑しつつ、神奈子はふわりと浮き上がった。と、
「あ…」
「はいはい、お前さんからだということは、秘密にしておくよ」
「なんで分かったの?」
「いやいや、ここまで続けば、パターンも読めるってもんよ」
「?」
 不思議そうな顔をするチルノにパタパタと手を振って誤魔化しながら、神奈子は次の場所へと向かった。後に残されたチルノは、目元を腕で乱暴にゴシゴシとこすると、湖のほとりに腰掛けて、星空を仰いだ。
「これでよかったんだよね、レティ」
 チルノの呟きに答えるものはない。ただ、月と星だけが、チルノを優しく照らすのだった。





「はぁ…」
 何度目になるか分からないため息を、大妖精はついていた。
 チルノの推測の通り、大妖精には悩みがあった。それは誰もが抱き、乗り越えていく類の他愛ないものであったが、彼女にとってそれは、とても重要なことであった。
「悩んでいるようだね、名もなき妖精よ」
「きゃっ!」
 唐突に降って湧いた声に、大妖精がビクリと震えた。
「ああ、驚かす気はなかったんだ。すまないね」
 神奈子は非礼を詫びると、ここにいる経緯を説明してみせた。
「願いを…」
「そう、なんでも叶えてあげるよ。それこそ、今抱えてる悩みなんてイチコロにすることもできる」
 少し考える素振りを見せた後、大妖精は神奈子に向き直った。
「私の話を、少し聞いてもらえますか?」
「そろそろ時間もないんだが…悩める子羊に手を差し伸べるのも神の仕事だ。言ってごらんなさい」
「…私には、何もないんです」
 ポツポツと、大妖精は事情を説明し始めた。
「私、中途半端に力が強いから、他の妖精からも特別に見られることがあるんです。でも、私は何をやってもうまくいかないんです。特別じゃないんです。何か自慢できる特技もないし、努力しても並以上に身に付かないし…きっと、才能がないんですね」
 自虐的に笑う大妖精。妖精のそのような笑みを見て、神奈子の胸中に複雑な気持ちが走った。
 妖精とは、深く物事を考えず、常にお気楽に生きているような連中だ。大小関係なく、失敗しても気にしたり反省したりするようなものはいない。
 しかし、妖精とは「それでいい」のだ。
 妖精は自然の写し身。それが心に澱みを持つと、司る自然そのものにも悪影響を及ぼす。だからこそ、妖精は深く考えることをしない。いや「できない」のだ。しかしそれは悪いことではない。妖精が元気に飛び回っている世界こそ、正常に機能している証拠なのである。
 ところが、ここに「歪み」ができている。それは神奈子自身の神徳の至らなさに繋がるようで、見ていて辛いものがあった。
「私の周りは凄い子たちばかりで、焦りもあるんだと思います」
 この妖精の友達といえば、先程の氷精や蟲の妖怪、宵闇の妖怪に化猫、夜雀などもいただろうか。どれも小妖で、取るに足らない者たちだ。
 しかし成程、氷精はもはや妖精の範疇を超える力を持っているし、蟲の娘も将来は蟲を束ねる女王として、その力を見せつけることだろう。化猫はあの八雲に連なる者であるし、夜雀は自分の力を活かして商売を成功させている。宵闇の妖怪も、実は危険すぎる力を封印された大妖だという噂もある。
 そんな将来を嘱望される者たちの中にあって、何も誇れるものがないこの妖精は、内々の中でさぞ惨めな思いを抱え込んでいたのだろう。その思いが膨れすぎて、周囲にも気付かれるほどの変調として出てしまっていたようだ。
(特別であることが幸せとは限らないんだけどね…)
 神奈子は自分の巫女の姿を思い浮かべた。早苗もまた、現人神としての特別な自分に思い悩んでいたことがあったのだ。
「じゃあ、お前さんは、何か凄い力を身に付けたい…そう願うのかな?」
 神奈子の問いに、しかし大妖精は静かに首を振った。
「私、このまま消えてしまいたいと思っていたんです。何もできずに取り残されてしまうくらいなら、いっそ…」
「『思っていた』ということは、今は違う、と?」
 コクリと、大妖精は頷いた。
「確かに私には何もありません。それでも、こんな貴重な権利を、私に譲ってくれた人がいた。そのことが、嬉しかったんです」
 自分の胸の中に、何か大切なものでもあるかのように、大妖精は胸元で手を合わせると、祈るように目を閉じた。
「誰かが私を想ってくれた…。それだけで、私にも『何か』があるんじゃないかって…そう、思えたんです」
(私の力は必要なかったね)
 神奈子は安堵しながら、この娘に権利を譲ると強がった氷精の姿を思い起こした。
(この子が立ち直れたのは、あんたのおかげさね)
「前向きになれたのは結構なことだ。じゃあ、それとは別に、お前さんの願いを叶えようじゃないか。むしろこっちが本題だ」
「いいえ、神様。私にはもう何も望むことはありません。大切なものを、すでに貰ってしまいましたから」
「とはいえ、こちらも仕事の内なんでねぇ…何でもいいから、願い事を言ってくれないかい?」
「…じゃあ、別の人に権利を渡してもいいですか? 実は、友達が大切な人に会えなくて悲しそうにしてるんですけど…」
「あー、実はね、もうタイムリミットなんだわ。ここに来るまでたらい回しでねー、これ以上、別のヤツの処へ行ってる余裕はない。だから、お前さんで最後なのよ」
「…じゃあ、あの、こんなお願いでもいいですか…?」
 ボソボソと恥ずかしそうに神奈子に耳打ちする大妖精。それを聞いて神奈子は思わず声を出して笑った。
「あー、ひどい! 真面目に言ったのにー!」
「ああ、ごめんごめん。でもそれだと対象が多すぎる上に、効果も不確定で叶えるのはチト厳しいね」
「そうですか…」
 シュンとする大妖精。しかし神奈子はニヤリと笑うと、大妖精の頭をポンポンとたたいた。
「『願い』として叶えることはできずとも、『祈り』として聞き届けることはできる。なにせ私は神だからね。信徒の祈りを受けるのは慣れてるのよ」
 大妖精が顔をあげる。そこには威厳を背負い、厳粛さの中に優美を併せ持つ神の姿があった。
「お前の想い、確かに受け取った」
 そう言い残すと、神奈子はその場から消え去った。あとにはどこか晴れ晴れとした表情の大妖精が残されていた。大妖精は神奈子が消えた方へ体を向けると、そのまま祈るように膝を折り、跪いた。
 ありがとう、神様。
 ありがとう、私を想ってくれた見知らぬ誰か。
 私はもう少し、頑張ってみようと思います。





「ただいま~」
 そう言って神奈子が守矢神社に帰ったのは、そろそろ日が変わろうかという時刻であった。
「おかえりなさいませ。随分遅いおかえりでしたが、首尾はいかがでしたか?」
「首尾も何もないわよ。まったく、ここの連中は揃いも揃って欲がないというか、お人好しばかりだわ」
「文句を言う割には、嬉しそうじゃない?」
 諏訪子の問いに、神奈子は少しだけ口元を緩めると、中天に座す月に顔を向けた。
「なに、あらためて、ここに来てよかったと思っていただけさ」
「「?」」
 早苗と諏訪子は「意味がわからない」とお互いに顔を見合わせた頃――

 魔法の森、魔理沙邸前庭にて。
 足元に書かれた魔法陣から膨大な光と共に魔力の奔流が渦巻いている。
「キタキタキター! やっぱりキノコをケチったのが失敗だったぜ!」
 魔理沙は帽子が吹き飛ばされないように手で抑えながらも、満面の笑みを浮かべていた。
「クリスマスにはギリギリ間に合ったか? ほら、幻想郷にとびきりのプレゼントだ!」
 魔理沙が最後の詠唱を終えると、魔法陣の中で暴れまわっていた魔力が一筋の光の柱となり、天へと吸い込まれていった。
 そして――

「雪…?」
 ひらひらと鼻先に舞い降りてきた小さな氷の一欠片に、チルノは思わず天を仰いだ。それまで雲ひとつなかった空から、次々と雪が降ってくる。
 と、背後に何かの気配を感じて、チルノは勢い良く振り返った。そこには待ち焦がれた者の懐かしい姿があった。
「久しぶりね、チルノ」
「…おかえり、レティ」

「あの黒白も、なかなか粋なことをするもんだ」
「なんのことですか?」
「いや、こちらの話さ」
 魔法の森の辺りから一条の光が空に吸い込まれていくのが、山の頂からでも確認できた。途端、雲ひとつない空そのままに、どこからともなく雪が降り始めたのだった。
 月明かりの下でキラキラと舞い踊る雪を風情に思いながら、神奈子の中で先程の光と魔理沙の実験が結びついた。
 アリスがチルノの様子を知っていたということは、きっと魔理沙もそのことを知っていたはずだった。おそらくあの不器用で粗暴で心優しい魔法使いは、小さな氷精のために、雪を降らせようとしていたのだろう。その予想が外れていたとしても、そうであるほうがいいじゃないかと、神奈子は思う。
 神奈子は手に持った杯を月に向けて、乾杯の姿勢をとると、最後に出会った名もなき妖精の姿を思い出した。
「生きとし生けるすべての人妖が、幸せでありますように」
 名もなき妖精が神奈子に告げた祈りを口にして、神奈子は杯の中身を飲み干した。そして――

「メリー・クリスマス!」

                                      Fin.

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